東京都の品川駅と田町駅の間に新駅を開業する計画があるのは、ネットのニュースなどでご存知ではないでしょうか?

追記)この記事掲載後の2018年12月4日に新駅の名称が高輪ゲートウェイと発表されました。

実は、そこに駅ができるだけではなく、JR東日本の主導による世界に誇る「街づくり」プロジェクトが進んでいるのです。

このたび、俯瞰工学研究所さんの企画で、このプロジェクトのキーパーソンであるJR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)の執行役員であり、品川・大規模開発部の担当部長の高橋武さんのお話を直接聞く機会に恵まれ、講演会に参加してきました。

そもそも首都圏に住んでいても品川や田町に馴染みがなかったり、単に通過したり乗り換えに使うだけで、「ふぅん、駅ができるのか」くらいにしか思っていない方も多くいらっしゃると思います。かつての職場が品川にあり、現在も田町〜渋谷間を走る都バスをよく利用する私ですら、同じような感覚で捉えていました。
ただ、今回のお話を聞いて「これは東京の景色が変わってしまうかも知れない」と感じるほどの夢のある計画でしたので、ここで紹介させていただきます。

泉岳寺の地下道


私の活動拠点である恵比寿から、品川駅港南口側にあるソニーやマイクロソフトに行く場合、もちろん山手線で品川駅まで行くのが王道です。ただ、タクシーで行くとなると、まず乗る前に「泉岳寺の地下道は通れますか?」とお聞きします。
この地下道、山手線の内側から外側への近道なのですが、なにせ天井が低い。ちょっと背の高い歩行者は屈んで歩いているくらいです。このため10人に1人以下の割合ではありますが、たまに「ウチのタクシーは、あのガード下は通れない」と言われることがあります。そこを使わないとかなり遠回りになるので、まず乗る前に聞くわけです。

新しい駅は、この地下道からさほど遠くない、都営浅草線の泉岳寺駅の近くにできる予定です。

鉄道から駅へ、駅から街へ

ずいぶん前に、恵比寿の居酒屋で飲んでいた女の子が、JR東日本の社員だと聞き、入社動機を聞いたことがあります。そのとき印象に残ったのが、意外にも「土地を持っているから」という回答が返ってきたことです。そうなんです。JR東日本は「駅」と言う非常にたくさんの人が集まる場所の周辺の土地、という豊かな経営資源を有している企業なのです。

ただ、今回の高橋さんのお話によれば、歴史的に見ると、まずは車両とか線路などの駅から駅への輸送力の充実に注力していたそうです。その時代は、駅は乗降をする場所であって、消費者も駅の改札を出てからショッピングをするのが常識でした。

ところが、みなさんも記憶に新しいと思いますが、JRさんは、だんだんと駅構内や駅ビルの価値向上にシフトして行きます。
講演のなかでは、大宮駅のホーム上に人口地盤を増設してショッピングエリアをつくったり、東京駅の丸の内口や八重洲口を大幅に改修したりするプロジェクトの説明をしていただきました。そう言えば、その昔、東京駅の駅ビルが大丸で、今の大丸は場所が変わったのだ、と言うことを思い出しました。

そして、今回の品川再開発プロジェクトは、新駅をつくるばかりでなく、13ヘクタールもの土地を一括してJRさん主導で開発し、駅の周辺の街づくりまで手がける、という壮大なビジョンを掲げています。
駅だけつくって、その周辺の土地を切り売りして他の企業体に任せる、という方法をとるのではなく、全部やると言うことです。

そして、品川駅から田町駅まで、新駅を経由して徒歩で通り抜けられるような風通しのよい街になります。
詳細については、JR東日本さんのプレスリリース(PDF)をご覧いただくことができます。

何ができるのか、どんなにスゴイのか

では、新駅ができたあと、どうなるのでしょう?
まず、東京オリンピックのタイミングの2020年に新駅ができます。
駅の完成予想CGを見せていただきましたが、折り紙のようなオーガニックなヴィジュアルで、電車を降りてから周辺の街が見える開放的なイメージでした。

新駅の開業に続き、次々と13ヘクタールの周辺地区に街ができていきます。

まず、大きな特長としては、かなり外国人や国際企業の誘致に注力していると言うことです。
グローバルスタンダードのホテルはもちろん、居住地にもインターナショナルスクールを設置するなど、国際的なビジネス拠点となることを狙っています。また、スタートアップの誘致や、新規ビジネス創造を支援する仕組みなど、国内からも野心ある起業家がこの地に集まりそうなアプローチもしています。
今は六本木や渋谷がこのような役割を果たしていますが、新幹線が通り、羽田空港にもアクセスしやすい立地を生かすことができるのが、この品川エリアの優位点でもあります。

そして最終的な起爆剤になるのが、2027年に開通予定のリニア新幹線の発着駅が品川になることですね。大阪まで行くのはちょっと先みたいですが、最終的には東京〜大阪間を何と1時間ちょっとで結ぶらしいです。こうなったら、羽田から入った外国人観光客が品川に宿泊して東京観光を楽しんだあと、京都や大阪を訪れる、というプランがこれまでにないスピード感で可能になります。

さらに驚きなのが、これはJRさんの事業ではありませんが、外苑西通りが延伸して、白金のプラチナ通り突き当たりのドンキホーテのあたりから、新駅と品川駅の間を突き抜けてそのまま海岸通りまで開通する予定もあります。これまで海側のエリアと高輪・泉岳寺エリアの風通しが悪かったのが、これで一気に解消します。また、大使館の多い広尾・麻布方面からクルマでこの地区に来やすくなるのも、国際化を目指す街の追い風になるでしょう。

参考:東京都市計画道路幹線街路環状第4号線及びその延伸部(PDF)

これらの開発により、どちらかと言えば地味だったこの地が世界への玄関になるかも知れない、と言う期待感溢れるプロジェクトでした。

質問してみました

プレゼンテーション自体はとても満足の行くものでしたが、大変興味のある内容でもありましたので、手を挙げて質問してみました。

ビジネスの拠点としての取り組みは納得感のあるものでしたが、観光客や首都圏に住む人が、わざわざ行きたいと思う街になるのか、という顧客体験について若干の疑問がありました。
こういう人口的につくられたビジネス街は、ややもすると大手の飲食チェーンばかりが並んでいるケースが多い。
もっと新橋のガード下とか新宿ゴールデン街みたいなエリアができる余地があったほうが外国人観光客も喜ぶと思いますが、いかがでしょうか、と聞いてみました。

高橋さんは、すでにそのポイントについても意識はしているそうで、肯定的な意見をお持ちのようでした。

実際、新宿ゴールデン街は今、外国人観光客で賑わっているのに驚きます。
清潔すぎるコンクリートで固められたビルだけでなく、年配のお母さんがやっている焼き鳥屋があるような飲み屋街なのに、支払いはSuicaでOK、みたいなエリアもあったら魅力が増すのではないか、と思って提案してみた次第です。

まとめ

企業には、有価証券報告書に記載されるような経営数字の成長が求められるものです。ただ、今回このプロジェクトのお話を拝聴して、JR東日本さんは数字的な、お金儲けの成長一本槍ではない、内容面の質の成長をも目指しているのがわかりました。
最後に、講演のなかで紹介された品川〜田町間の京浜東北線の線路を一晩で移動する工事の動画が感動的だったのでこれを紹介します。この「サービス品質よくするプロジェクト」ページ下部の「線路切換工事編」の動画を再生してみてください。

恵比寿UX代表・山田勲Twitter@ebisuux