マイナンバーに関して、ツイッターで850人にリサーチをしたところ、6割以上の人から「持っているはずだが、すぐには見つからない」または「無くした」との回答がありました。
ツイッターユーザーという限定的なセグメントではあるにしても、これがほぼ実態ではないかと考えられます。
これだけ見ると、あまり国民に相手にされていないと言っても過言ではない、このマイナンバー制度について、僭越ながら日本の未来を見据えた提言をさせていただきます。

2019年1月1日から、マイナンバーが必須になるサービス

羨ましいことに、先々週の12月21日には「仕事納まりました」と投稿している人も、ちらほらいました。一般の会社員の最終日は遅くとも12月28日の金曜日だったはずでしょう。
それでも、年末年始も休みなく働く人たちもいます。交通、ホテル、コンビニ、テレビやラジオの現場、カウントダウンイベントのスタッフなどです。

さて実は、この大晦日から元旦にかけて、日本から海外への国際送金に関する規制が厳しくなり、マイナンバー(個人番号)による本人確認が必須になります。
なぜ、政府機関はこの変更日を2019年1月1日にしたのでしょう?

キリがいいから、くらいの理由しか思いつきません。

日本人の多くのみなさんは、海外送金などしたことはないかと思います。海外から物品を取り寄せる場合でも、クレジットカードやペイパルで決済できるので、そもそも需要がない。

では、いったい、どんな人が使うのでしょうか?

日本からの海外送金のコアユーザーは、こんな人

日本で海外送金を定期的にする主たるユーザーは、最近増えてきている日本で働く外国人の方々です。給料が出ると、自国の家族にお金を送るのです。とくに12月はクリスマスということもあって、1年間で最も利用が多い時期にあたります。

外国人の場合、日本の3大メガバンクの口座を持っている方は少数派で、給与は振込ではなく現金支給の場合も多くあります。給料日も必ずしも25日ではなく、15日の人や月末の人も多いのが現状です。日本企業では、給料日が土日にあたる場合は前倒しして金曜日に給料が出たりもしますが、現場が土日稼働の場合は、給料日当日に支給される方もいます。

マイナンバーを必須にする主旨は?

では、なぜ2019年の年初からマイナンバーが必須になるのでしょうか?

海外への不正な資金の流れ(マネーロンダリング)の防止が主な目的です。

では、今までが規制がなかったかと言えば、そういうことでもありません。
日本在住の外国人の場合「在留カード」を持っていますが、それを提出してもらうことによって、送金者がテロリスト等のブラックリストに含まれていないかどうかのチェックはこれまでもやっていました。
加えて今回、政府機関によるマイナンバーを含めたダブルチェックが義務づけられた、ということでしょう。

しかし、なぜ1月1日なのでしょうか。

これは、年末年始を返上してシステム屋さんに働けと言っているようなものです。
先ほど述べたような月末が給料日の人は、大晦日に送金するケースも考えられるので、正直にやれば大晦日の紅白歌合戦が終わったあとにシステム変更をする必要があります。前もってタイマーを仕掛けておく方法もあるにせよ、いずれにしても何かあったときのための待機が必要となります。

働き方改革を推進する政府機関が、そういうシステム観点での問題を考慮していないのは、2018年に持ち上がった、オリンピックイヤーにサマータイムを設けようとした動きでも明らかです。

日本人向けより大変な、外国人へのマイナンバーの周知徹底

日本人でも手元にない人が半数いるのに、外国人の方にマイナンバーについて伝えるのは至難の技です。
なにしろ、以下の点でシンプルさに欠けていて、わかりづらいのが課題です。

  • マイナンバー通知カード(ほとんどのみなさんが持っている薄緑色の紙カード)と、身分証明書としても使える個人番号カードの二種類がある
  • 「マイナンバー」というのは制度の名前であって、12桁の番号そのものは「個人番号」と言う
  • 通知カードは身分証明書としては機能しない
  • 個人番号カードを発行するには12桁の個人番号とは別に(たぶんみなさんも忘れてしまっているかと思いますが)通知カードが郵送されてきたときに同封されていた23桁の申請者IDが必要

そして、マイナンバーの提出が必要だが、どうしても手元にない場合はどうすればいいか。

役所に行って「個人番号つき」の住民票を発行してもらえばよいのです。
300円かかりますが、これなら数分で発行することができます(個人番号つき、と指定する必要あり)。

ただ、住民票を発行することができる地方自治体の役所では、海外送金にマイナンバーが必須になること自体が十分に周知されていないようです。筆者は、3度窓口に出向きましたが、どなたもそのことを知っている方はいらっしゃらなかったです。

制度上イマイチなところはここにも

さて、筆者は個人的に運転免許証を持っていないので、写真つきの身分証明書と言えばパスポートしかありませんでした。
そこで今回、個人番号カードをつくってみることにしました。
やはり「申請者ID」を無くしてしまったので、申し込みサイトの最初の画面でつまずきました。

そこで区役所に出向きます。

——マイナンバー個人番号カードを作成したいのですが、申請者IDを無くしてしまいました。
——わかりました。運転免許証をお持ちですか?
——いいえ、免許持ってないので、この保険証ではダメでしょうか?
——はい、写真つきでないと受け付けられないのです。
——(やや怒)写真つきの身分証がないからカードを作ろうと思っているんですが!
——パスポートありますか?
——ありますけど、保険証でOKだと思っていたので、家に置いてきてしまいました。
——では、再度パスポートを持参して窓口までお越しください。もしくは保険証と年金手帳の組み合わせでも大丈夫です。

窓口の人に何の罪もないのですが、やや声を荒げそうになってしまいました。

そして、二度目の区役所訪問で申し込みが11月29日に完了し、12月20日にカード引き換え票のような書面が自宅に送られてきました。

そうなんです。

カードが送られてくるわけではなく、カードを受け取りに、また役所に出向く必要があるのです。しかも「電話予約」をして、送られてきたハガキに署名・捺印までして、またしても写真つき身分証明書持参で。

めげずに、さっそく電話をしてみます。

——個人番号カードの受け取りの申し込みをしたいのですが。
——はい、ただいまですと、一番早くて年明けの1月7日の午前9時から10時の間になります。
——えっ、そんなに先なんですか?その9時から10時までの間っていうのは何でしょうか?9時に行ったら9時に受け取れないんですか?
——はい、ご本人様確認とかの手続きがありまして、すぐにはお渡しできないんです。
——10時までかかっちゃうと仕事に遅れてしまうのですが、ふつう役所の窓口って8時半から開いてますけど、もっと早くにはできないんですか?
——それでは、土曜日にお受け取りもできます。最短で1月26日になりますが。
——(絶句)

窓口の人には何の罪もないのです。でも、声を荒げてしまいました。

セキュリティに十分配慮したいのはわかります。

しかし、百万円単位の決済ができるクレジットカードですら郵送対応しているのに、ここまで厳密にする必然性があるのかは、はなはだ疑問です。

制度全体として、こんなやり方をしているから普及しないのではないでしょうか?

むやみに人に教えてはいけない、個人番号

しかも、この個人番号、使い道が限定されています。番号を提出できるのは国や地方公共団体、勤務先、金融機関、年金・医療保険者と明記されています。 (詳しくはこちら

今や、クレジットカードの番号はおろか、購買行動や、日常生活、GPS位置情報まで、海外発の民間企業のサーバ上で「管理」されてしまっている実態からすると、ここまで閉鎖的にする必要があるのかは疑問です。

これでは、壮大なビジョンを掲げて電子政府を構築しているエストニアのようになれるはずもありません。 (関連記事はこちら

普及の糸口は、スマホアプリ化して、メリットの提供範囲を広げること

マイナポータルというのがありますが、そもそも発想がICカードありきで、マイナンバー個人番号カードを持っていることが必須になります。調査結果からもわかるとおり、このカードは普及していません。その個人カードを普及させるために「便利です」と言って始めたのがこのポータルなのかも知れませんが、みなさん、このサービスラインナップを見て、カードを発行したいと思えるほどの魅力を感じますか?

いっそのこと、個人番号カードを普及する、という道は捨てて、マイナンバー専用のアプリを普及させることに方向転換したらいかがでしょうか?

日本は、SuicaをはじめとするICカード大国です。ただし、じわじわとQRコードによる決済が浸透してくるはずです。新宿駅の朝のラッシュをさばくには処理速度が速い交通系ICカードが向いていますが、導入コストと言う意味でQRコードに勝るものは今はありません。中国で、おばちゃんひとりでやっているような屋台でもQR決済が普及したのは、QRコードを印刷して貼りつけておくだけでよい、という簡便さが理由のひとつにあります。ICカードのリーダーは、どうしてもコストが高いのです。

マイナンバーも、スマホアプリ化すれば、個人番号の含まれたQRコードを表示させて、窓口のスタッフが読み取りアプリでそれを読むか、逆に印刷されたQRコードをマイナンバーアプリが読み取って、必要な情報をやりとりする、という芸当が可能です。

そこにはICカードは必要ありません。

それに、QRコードにしてしまえば、生の番号がオモテに出ないですみます。
では、スマホを無くしたらどうするか、という懸念があるでしょう。ただ、顔認証や指紋認証などの技術を搭載すれば、持ち主本人でないと情報を呼び出せないようにしたり、有効期限を数分に限定したワインタイムQRコードなどセキュリティ対策の手段はいくらでもあります。

また、個人番号カードの有効期限は10年、15歳未満の場合は5年としているようですが、スマホアプリであれば写真の更新は随時できますので、わざわざコストをかけてカードを再発行する必要はありません。

この仕組みの認証の部分だけを第三者にも活用できるようにして、マイナンバーそのものを漏洩することなしに、民間企業のサービスにも活用することができれば、よりメリットは広がるでしょう。たとえば、持ち物にQRコードを貼りつけておけば、忘れた物をしたときに誰かがそれを見つけて連絡することができるとか、電子チケットの替わりになるとか、ログインに使えるとか、可能性は無限大です。

では、スマホを持っていない高齢者はどうするのか。
そういう方のためのオプションとしてカードを用意しておくのはよいでしょう。
それよりも、若い人に率先して使ってもらわないと普及はおぼつかない、という視点で考えるべきです。

まとめ

マイナンバー制度そのものが、個人の資産を監視する主旨もあることから、普及推進にあまり賛成でない意見もあるでしょう。それに今くらいサービスが限定的なほうが、自分のプライバシーを管理されないですむ、という考え方もあります。
ただ、日本政府が主導でやっている以上、今後マイナンバーがないと利用できない行政サービスも増えていくのではないかという考えから、あえて前向きに提案をしてみました。

恵比寿UXデザイン・山田勲Twitter@ebisuux